石川県七尾市にある曹洞宗の寺院、龍門寺。

能登半島地震により本堂は全壊し、現在は丸2年におよぶ修繕工事を進めながら、復興への道を歩んでいます。

未曾有の震災対応の中でご住職が痛感したのは、「決算書の作成」と「会計の透明化」が、復興のスピードそのものに直結するという現実でした。

手書きノートでの管理からSTATへ移行して約9ヶ月。2026年6月に、個別の宗教法人として石川県から「指定寄付金制度」の認可を取得されました。 被災地のリアルな現状と、STATがもたらした変化について、ご住職にお話を伺いました。

能登半島地震からの復興と宗教法人会計_モバイル版
能登半島地震からの復興と宗教法人会計_PC版

導入の背景:手書きノート管理へのモヤモヤと、震災で突きつけられた「決算書」の必要性

導入の背景:
手書きノート管理へのモヤモヤと、震災で突きつけられた「決算書」の必要性

Q. STAT導入前の龍門寺の会計体制について教えてください。

ご住職:

私が住職に就任したのは2021年ですが、それまでの龍門寺の会計は、ノートにボールペンで手書きするという管理でした。

現金は財布や手元で管理し、まとまったら銀行に預けるというスタイルで、決算書や帳簿はもちろん、「仕訳」という概念自体がありませんでした。どれだけ入って、どれだけ出たかが最低限分かる程度だったのです。

「何にいくら使っているのか」が長年見えないことに、ずっとモヤモヤとした危機感を抱えていました。地震の前から「会計をはっきりさせたい」という思いはあったのです。

Q. そこに能登半島地震が起きたのですね。

ご住職:

はい。地震で寺は全壊しました。

更地にして新しく建てるか、修繕するか。私はどうしても残したいと思って方法を模索し、修繕を引き受けてくださる業者さんにも出会えて、2026年からようやく工事が始まりました。工事期間は丸2年、費用も億単位です。

復興の手続きを進める中で痛感したのが、決算書の必要性でした。

本山からの分配金(義援金)は簡単な申請書に記入し、口座番号を伝えるだけで受け取れます。しかし、そこから一歩踏み込んで税金などの減免申請を行ったり、融資にチャレンジしたりしようとすると、必ず精緻な決算書が求められるのです。

しかも、行政の義援金は住民票に記載された「個人・世帯」が対象で、宗教法人に対する直接的な支援金や減税措置は存在しないため、自力で決算書を整え、公的な制度を取りに行く必要があったのです。

「これをきっかけに体制を整えてしまった方が絶対にいい」──やりたい気持ちが半分、やらざるを得ない気持ちが半分で、会計ソフトの導入を決めました。

地震で全壊し、修繕を進める龍門寺(提供:龍門寺)

STATとの出会い:「お寺の関係者が開発している」という安心感が決め手に

STATとの出会い:
「お寺の関係者が開発している」という安心感が決め手に

Q. 数ある会計ソフトの中で、STATを選ばれた理由を教えてください。

ご住職:

Googleで会計ソフトを色々と検索している中で、STATを見つけました。 正直に言うと、他社ソフトとの厳密な機能比較はしていません。

「お寺の方が開発に関わっていて、寺院特有の特殊な会計実態を理解してくれている」── このバックグラウンドが何よりの安心感で、「きっといいのだろうな」と一択で導入を決めました。

実際の活用法:半年分のレシートをスマホ撮影で一気に入力。1年分の決算書が完成

実際の活用法:
半年分のレシートをスマホ撮影で一気に入力。1年分の決算書が完成

Q. 導入後は、どのように活用されましたか?

ご住職:

導入するまでは決算や予算という概念すらなかったので、まずはそれまでのお盆のお布施や経費など、半年分溜まっていたレシートやお布施の袋を全部ひっくり返して、スマートフォンのカメラで撮影しては入力、撮影しては入力、を繰り返しました。

レシート撮影や仕訳の操作がとにかく直感的で簡単なので、半期分まとめて溜まった状態からでもスムーズに処理できました。

途中、現金を口座に移すときの仕訳が分からずメールで質問したのですが、翌日には「口座間取引機能」をご案内いただけました。操作が簡単であること、そして困ったときにしっかりフォローしてもらえること。この2つのおかげで「自分でもできる」という感覚を持てたことが、とても大きかったですね。

導入効果:STATで作成した決算書で、石川県から「指定寄付金制度」の認可を取得

導入効果:
STATで作成した決算書で、石川県から「指定寄付金制度」の認可を取得

Q. 2026年6月に「指定寄付金制度」の認可を取得されたそうですね。

ご住職:

はい。指定寄付金制度は、企業や個人から寄付を集めることができ、寄付をした側は税制上の優遇を受けられるという、行政が認可する制度です。

この申請には決算書と予算書が必須なのですが、STATで作成した決算書を添えて申請した結果、先月、石川県から正式に認可をいただくことができました。

融資への申請も含めて、決算書が作れたことで「チャレンジできることが一気に増えた」。これが何よりの成果です。

災害という緊急事態の中では、行政に「これでOKです」と受け取ってもらえる成果物を、どれだけ簡単に、どれだけ早く作れるかが、復興・復旧のスピードに直結するレベルの話なのです。

Q. 業務面以外で、変化を感じておられることはありますか?

ご住職:

一番大きいのは、意識の変化です。

導入前は、極端に言えば「生活ができていればいいか」という認識でした。それがSTATでお金の流れや残高がリアルタイムに見えるようになると、「年間の規模はどれくらいか」「では寺として、龍門寺としてどんな活動ができるのか」が、すべてつながって見えてくるのです。

お経を読むことが主務である僧侶は、どうしても会計への意識が薄れがちです。「お気持ち」でなんとなく受け取り、なんとなく使ってしまう。そうではなく、お金を扱う者としての自覚を持ち、襟を正して、誰にでも堂々と公開できるお金との付き合い方をする。

この「当事者意識」が身についたことこそが、STATの一番本質的な価値だと実感しています。

被災地の現実:「初動の1ヶ月の遅れが、10年の遅れになる」

被災地の現実:
「初動の1ヶ月の遅れが、10年の遅れになる」

Q. 被災地の他の寺院の状況は、いかがでしょうか。

ご住職:

正直に言うと、残酷な現実があります。

会計や申請手続きの知識があり、動く余裕のあるところは、どんどん支援を獲得して前に進んでいく。

一方でこの規模の災害ですと、どうしても今日一日を生きることに精一杯で、情報も知識も手に入れることができない方もたくさんいらっしゃる。

そういったところが取り残されていく恐れがある。この2〜3年で、その差がはっきりと出てきてしまっているように思います。

初動の1ヶ月の遅れが1年の遅れになり、それが10年の遅れになって取り返しのつかないことになる。だからこそ、規模が小さくても、お金の出入りが少なくても、会計はしっかりやっておくべきだと今回痛感しました。

能登半島の寺院の大半は、今も紙とペンと電卓で管理していて、帳簿すら作っていないところも多いはずです。災害が起きてから慌てるのではなく、平時から備え付け帳簿と同じ感覚で会計を整えておく。その意識付けのためにも、STATのようなソフトはどんどん広まってほしいと本当に思います。

やり出せば、意外とできてしまうものなのです。災害のときに一番大事なのは気持ちの問題で、その気持ちさえ整えば、STATがあれば十分に自力で進められます。

今後への期待:世代交代とともに、寺院会計のデジタル化は一気に進む

今後への期待:
世代交代とともに、寺院会計のデジタル化は一気に進む

Q. 今後、STATに期待されることはありますか?

ご住職:

2点あります。1つは、スマートフォン版でもPC版と同じように「口座ごとの残高」が確認できるようになること。もう1つは、クレジットカード以外の決済手段への対応です。私の周りには、クレジットカードを持っていない、あるいは事情で作れないケースが少なくありません。口座引き落としや請求書払いに対応いただければ、団体での導入や高齢層への普及が一気に進むと思います。

Q. 最後に、全国の寺院の皆さまへメッセージをお願いします。

ご住職:

今後数年で確実に「世代交代」のタイミングが来ます。そこで切り替われば、スマートフォンで週に1回入力するようなスタイルが一気に主流になるはずで、クラウド会計へシフトする余地は非常に大きいと感じています。

私が所属する地元の宗派団体でも、会計や法務の実務的なセミナーへの需要は非常に高いのです。仕訳のやり方を口頭で説明されても僧侶はイメージが湧きませんから、会場の真ん中にパソコンを置いて、実際にお布施の入力や仕訳を体験してもらう「実践形式」ができたら面白いと思っています。

寺院の会計は、クリアでオープンであるべきです。会計を整えることは、お寺の未来の選択肢を増やすことに直結する ── それが、被災を経験した私の実感です。同じように悩んでいる寺院の方には、ぜひ一歩を踏み出してほしいですね。

まとめ

まとめ

今回は石川県龍門寺の上田住職にお話を伺いました。

能登半島地震からの復興という大変なご状況の中で、平時の備えがいかに災害時には重要となるか、大変貴重なお話をお伺いすることができました。

STATは全国のお寺・神社をはじめとした宗教法人の強固な運営基盤を築くお手伝いをこれからも進めていきます。

本記事が、宗教法人運営について皆様が立ち止まって振り返る機会となりましたら幸いです。